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CROSSTALK #04

TUCKER
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やけのはら
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古川太一(RIDDIM SAUNTER)

 

僕はドラムよりも先に、2枚使いでDJすることから音楽がはじまった

古川 僕はドラムよりも先に、2枚使い(でDJすること)から音楽がはじまったんで。ずっとジャグリングとかしてたんですけど、ドラムをやりはじめてから、だんだん演奏する方が楽しくなっていったんです。

──以前、TUCKERに取材した時に訊いて印象に残ってる言葉なんですけど。もともとTUCKERはDMC(註:ターンテーブリストがスクラッチなどの妙技を競う世界的な大会)のDJバトルとかすごく好きじゃないですか? そうして好きで聴いてきたヒップホップから受けた影響を、同じようなスタイルで返すんじゃなくて、何か別なカタチで示すことが、リスペクトなんだって言ってたのが、すごく印象深くて。

TUCKER そんな偉そうなことを(笑)……でも、実際の話、海外とかに行って、「お前、日本人のくせによくやってるな。俺たちのカルチャーを後押ししてくれてありがとう」みたいなことを言われちゃうとダメかなあって思うんだよね。がんばってくれよ的な感想よりは、「何これ? どうなってんの?」って思ってもらったほうがいい。たとえば、海外の人が来てて食事に連れて行くとして、海外からフランチャイズしてるレストランとかに連れてくよりは、その土地でしか食べられない定食屋とかに連れてってあげるのが人情かなぁと思うんですよね。

──うんうん。

TUCKER 最近、韓国に行く機会が多いけど、やっぱりそこで洗練されたヒップホップを観たいわけではなく、東大門とかソウルの雑踏が目に浮かぶような音楽が聴きたいし、実際、そういう音を作ってる人もいるんですよ。僕はたぶん、そういうドメスティックなものが好きなんですね。

──そう思うと、やけのはらさんが七尾旅人さんと一緒にやってる「Rollin' Rollin'」も、日本人だからこそ感じられる、夜遊びしたあとのちょっとせつない感じとか、その場所に住んでないとわからない感覚みたいなものが、曲の中に落とし込まれてますよね。

TUCKER 僕がやけのはらくんの曲で聴いてショックを受けたのは、「東京の町も空気が悪くなっちゃってさ……」っていうような語りが入る曲があるじゃないですか?

やけのはら 僕が河童に憑依して若者を斬るっていう、日本昔話みたいな曲があったんですよ。それを、なぜかTUCKERさんが異常に気に入ってて(笑)。その曲は、諸事情によってまだ発売されてないですけど。

TUCKER えーっ? あれ発売してくださいよー。そう、あれは聴いて本当にいいなぁって思って。若者に対する嘆きみたいのが曲間に挿入されてるんですけど、やっぱり僕が感動するのって、何これ!? みたいな感覚を味わった時だし、そういうのをみんな楽しみにして音楽聴いてると思うんですよね。僕は別に“対 海外”ってことが強く自分の中であるわけじゃないけど、でもそれは、たとえば“対 やけのはら“にしてもそうだし、“対 RDM”にしても思うことなんだけど、やっぱり「これは何だ?」っていうものを見たいし、実際やけのはらくんにもRDMにも、それぞれにそういった感動を覚えたことがあるから。わかりやすくインターナショナルなことである必要は全然なくて、独特なものを僕は見てきたいし、自分もそうありたいし。

やけのはら でもまあ、自分たちのやれることしか出来ないっすからね。海外を意識しても、やっぱり上手く出来るわけがないんで……性格的な好みかもしれないけど、ゴール地点の違いみたいなものもあるのかもしれないですね。たとえば、すごくジャマイカ人みたいになりたいルーツ・レゲエの人とかって、僕はちょっと苦手みたいなところがあって。この人こういう風になりたいんだとか、こういう音を出したいんだっていうのが見えちゃうものより、もっと自分なりでいいんじゃないかって思うんです。僕自身、もとから好きなものが並行してたくさんあったんで、普通にやってたら自然とばらけていったんですけど。やっぱりガチのテクノとハナタラシみたいなのって融合できないじゃないですか?

TUCKER それにパッと見で、これとこれが融合してるなってわかるものって、あんまり面白くないよね。それよりも出所がわからないものが自然に出てくるものに興味を覚えるわけで。だからRDMの音楽とかも、今になってわかるけど、まさかDMCが要素としてあったんだ!っていうね(笑)。でも、日本ほど、俺たちの音楽はこれだ!って、もともとルーツにある音楽をわかりやすく表現出来ない国ってなかなかないと思うんだよね。たとえば和太鼓は日本の伝統としてあるけど、それがルーツだっていう感覚は、みんなの意識として共有されてない。

──多くの人が一番慣れ親しんでる歌謡曲そのものが、いろんな音楽が複雑に混ざりあったミクスチャーだっていう事実もありますしね。

TUCKER そうそう。だからそういう感覚を楽しむのが面白いことだと思うし、たとえばアメリカのギャングスタ・ラップにしても、ジャマイカのルーツ・レゲエにしても、もちろん背景とか思想とかルーツを勉強すれば出来るけど、それを知らないで楽しく聴けることの出来る、唯一の国だとも思うんですよ。感情的にならずにいろいろ聴けるっていうのは、日本独自のいいところでもあると思うんですよね──もちろん俺もそれが悪いとこだって思ってた時期もあったんだけど──やけのはらくんのやってることもRDMがやってることも、それが理屈じゃなく日常と結びついて生まれてくるところに、日本人独特の感じがあると思うし、また、それを日本がどうのとか考えないでやってる。ちゃんと知識を必要としなくても、すぐ楽しめる音楽になってるし、そういうのがいいなって思うんですよ。

やけのはら そんなこと言ったらTUCKERさんの芸も、どこかの国の現住民が観ても楽しめそうな気がしますよね(笑)。

TUCKER 逆に言うと言葉がない、ヴォーカルがないから結局そういう風になっちゃうよね。でも、俺はその地域の人しか理解できない言葉のアートは絶対あるべきだと思うし。なんで俺がこういう話をするかっていうと、あまりにも海外の音楽や情報が幅を利かせすぎてる気がして。日本の音楽がアンダーグラウンド・シーンでもサブカルチャー・シーンでももっといっぱい広がって、もっと普通に触れられるようになってもいいのになって思う。

──でも、ここ数年でインディペンデントやってる人たちが、自分たちから発信しやすい環境が整ってきたり、アーティスト同士だったり、リスナー同士だったりで情報を共有して広まっていく機会も増えてきてるような気もしますよね。

TUCKER 韓国のアーティストとMySpaceで繋がって、ここ2年ぐらい韓国に行ったり、向こうから呼んだりしてるけど、そういうのって以前はなかなか出来なかったですからね。

古川 Twitterも大きいですよね。それでライヴに呼ばれたりとかも結構ありますし。いい意味で近い感じがしますね。

やけのはら 僕は事務所に所属するとか一切やってこなかったんで、変わらない感じでやってますけど──人との関係性だったり、ひとつひとつのイベントだったり、今までも地味にやってきたそういうやり方が普通になってきた感じというか。あとまぁ、いわゆる電脳ツールみたいなのは、僕みたいなやり方をしてる身にとっては宣伝しやすい。どこに広告頼んでインタビュー取ってもらったり……みたいなことしなくていいですから、個人的にはやりやすくなりましたね。

TUCKER やっぱり以前に比べたら、確実に面白いものは観られてるていうのが、実感としてきちんとある。それはいい傾向だと思うんだよね。

取材協力:渋谷 echo
http://echo-shibuya.com/

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